戦場を離れて早や6ヵ月が経つ。耳と鼻が鈍ってきた。たまに戦場に行くのが一番危ない。「これくらい大丈夫だ」とタカをくくるからだ。
カンを鈍らせないためにも時々、パレスチナを反芻する―
難民キャンプとその周辺は真っ昼間なのに死んだように物音ひとつしない。聞こえてくるのは唸り声をあげて上空を旋回するドローンのエンジン音だけだ。
「ガガガガ・・・」イスラエル軍名物の超大型ブルドーザーが道路や建造物を破壊する音が耳に飛び込んでくる。
四方八方から響いてくる発砲音や爆発音の方角から戦域を割り出し、戦域ド真ん中に入れば―
イスラエル軍が何を攻めようとし、ハマスやファタハが何を守ろうとしているのかが分かる。この目で確かめることができるのだ。
ガザであろうがウエストバンクであろうが、病院は最大の攻防となる。
鼻を利かせていれば、イスラエル軍の臭いが分かる。
逃げ道を確保しながら前進する。取材が一段落したら、撃ち殺されないようにしてホテルまで辿り着かねばならない。
虐殺の実態を読者に伝えるのだ。それが田中の使命だと思っている。
~終わり~
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【読者の皆様】
虐殺を見届け伝えられるのはジャーナリストだけだ、との信念に揺らぎはありません。