車の離合ができないほど狭い道路がくねくねと続き、トイレが詰まったような悪臭が鼻を突く。エルサレム北隣のカランディア難民キャンプである。
同難民キャンプにはイスラエル建国(1948年)と第3次中東戦争によってエルサレムを追われたパレスチナの民12万人が暮らす。谷を隔てて向き合うのはユダヤ人入植地だ。緊張は絶えない。
取材車がキャンプに入るとすぐに尾行が付いた。高級車ではないが、小綺麗な白い乗用車だった。
田中が車から降りて写真を撮っていると、白い乗用車から30代の男が降りてきた。
取材車のドライバーは当然アラブ人だ。ドライバーに田中はどこから来たのか、何者なのかを訪ねた。日本のジャーナリストであることが分かると普通に話し始めた。
男は「この辺で農業に従事している」と語っていたが、指はきれいで顔も陽に焼けてはいなかった。「2年前、(入植地のユダヤ人が)あそこから(パレスチナの)子供をライフルで撃ち殺したんだ」と田中に吹き込んだ。明らかにパレスチナ側の諜報要員である。
難民キャンプをめぐっては、イスラエル側はさらに神経を尖らす。15日深夜、キャンプ入口から少し奥まった所にある民家をイスラエル軍が急襲した。
家族全員を叩き起こしビンタを加えながら「テロリストを匿っていないか」と追及した。
前日(14日)深夜にもすぐ近くの別の民家で同様のことがあった。
田中はこれまでにも難民キャンプを取材で訪れたが、パレスチナ側の尾行が着くことはなかった。
イスラエルでは狂信的宗教政党とタカ派による連立政権が、間もなく発足する。
武力において圧倒的な優位に立つイスラエルに対してパレスチナ側は警戒を強めている。被支配民族の本能だろうか。
~終わり~