【JR労働強化】 240mオーバーランの運転士、拘束時間20時間54分 「眠い」「疲れた」が合言葉

快速電車の先頭車両はこの目印に停止するはずだった。15両編成の列車は最後尾から3両が残った。=17日、JR柏駅 撮影:田中龍作=

快速電車の先頭車両はこの目印に停止するはずだった。15両編成の列車は最後尾から3両が残った。=17日、JR柏駅 撮影:田中龍作=

 13日午前7時55分、JR常磐線・柏駅で上野発取手行きの快速電車が、ホームを240mもオーバーランした。運転士は、JR東日本の事情聴取に対してオーバーランの原因を「睡魔に襲われた」と説明している。

 『田中龍作ジャーナル』は、オーバーラン経験者から事情を聞いた。ハンドルを握って20年のベテランだ。結論から先に言おう。最大の原因は、合理化に伴う労働強化で運転士が疲労困憊していたことだった。

 オーバーランを起こした運転士の前日(12日)と当日(13日)の勤務を振り返ってみる。12日の11時55分に出勤し、翌13日の8時49分に退勤した。拘束は20時間54分に及ぶ。当該の運転士に限らずほとんどの乗務員は「拘束時間が長い」ともらす。

 休憩時間は細切れだ。1回目は14時26分~15時15分。2回目は16時56分~17時36分。電車から降りて休憩場所に行って帰って来る時間を入れると、実質わずか30分以内に夕食を食べなければならない。

 21時28分~翌朝3時15分まで仮眠を取り、始発電車に乗務する。電車から降りて仮眠室まで行って帰ってくる時間を入れると、仮眠時間は5時間を切る。寝る時間を惜しんで風呂にも入らない運転士が少なくない、という。

 上野駅と取手駅を往復するルーティンワークだったが、2本目の運転で、オーバーランをした。退勤予定時刻の直前だ。疲労が極限に達している頃でもある。

 運転士は起立してハンドルを握っていた。イスに座るとウトウトしてしまう恐れがあるからだ。それでも睡魔に襲われホームを240mも行き過ぎた。運転士は立ったまま、一瞬意識が途切れたのである。

 オーバーランに気付いた車掌が非常ブレーキのレバーを引いて電車を停止させた。車掌は10余年選手。ベテランの域に達する。

 「若い車掌だったらレバーを引けなかった。そのまま隣の駅に行っていただろう。ベテランに助けられた」。運転士は胸を撫でおろした。

乗務員の勤務シフトである「行路表」。以前と比べると過密な勤務となっていることが分かる。指が指しているのは、オーバーランが起きた駅と時刻。=17日、都内 撮影:田中龍作=

乗務員の勤務シフトである「行路表」。以前と比べると過密な勤務となっていることが分かる。指が指しているのは、オーバーランが起きた駅と時刻。=17日、都内 撮影:田中龍作=

 常磐線の勤務のキツさは乗務員仲間でも有名なようだ。3月16日のダイヤ改正後、一段と厳しさを増した。

 一例をとると、別の乗務員は、ダイヤ改正前は12時16分に出社していたが、改正後は10時49分に出社となった。1時間半近くも早くなったのである。

 退勤時刻はどうだろう。改正前は翌8時47分に退勤できていたのが、改正後は9時46分退勤となった。1時間遅くなったのである。

 早く出勤させられて遅くまで引っ張られる。拘束時間は2時間半増えた。

 JR東日本の東京支社だけでも人員削減は100人にのぼる。当然、労働者一人あたりの仕事量は増える。

 勤務時間が長くなり、走行距離も長くなれば、その分疲労は増す。「眠い」「疲れた」が乗務員たちの合言葉となっている。大事故の前兆であるオーバーランが、この先も繰り返されることは火を見るより明らかだ。

 JR東日本が来年4月から実施予定の「新たなジョブローテーション」では、同じ担務は10年以内とされている。運転士がオーバーランしても非常ブレーキのレバーを引く車掌はいなくなるのだ。

JR東日本が社員に3月28日に提示した「新たなジョブローテーション」。熟練した運転士と車掌は姿を消す。非常ブレーキのレバーを引けるベテラン車掌がいなくなるのだ。公共輸送機関の効率化は危険だ。

JR東日本が社員に3月28日に提示した「新たなジョブローテーション」。熟練した運転士と車掌は姿を消す。非常ブレーキのレバーを引けるベテラン車掌がいなくなるのだ。公共輸送機関の効率化は危険だ。

   ~終わり~

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