サンゴの海に浮かぶ奄美大島。白い波が打ち寄せられる砂浜には黒い斑点が延々と続く。斑点は直径3〜4センチから10センチ以上ある物まで大小さまざまだ。
触るとゴムのように柔らかくてヌルヌルとし、コールタールの匂いがした。
東シナ海でイランの船会社が所有するタンカーが中国の貨物船と衝突、日本の排他的経済水域(EEZ)で沈没した。衝突事故は1月6日に発生し、沈没は14日。
奄美大島の島民が黒い斑点を海岸で見かけるようになったのは31日頃だ。黒い斑点はタンカーの動力用重油と見られている。
重油による漁業への被害も懸念されるが、不気味なのはタンカーの積荷であるコンデンセートの流出だ。
コンデンセートとはガス田から天然ガスを採取する際、発生する物質。水銀、鉛、硫黄などの毒物を含有するが、軽くて揮発性があり目に見えない。放射能と同じだ。
桑原振一郎内閣官房審議官(危機管理担当)は7日、衆院予算委員会で川内博史議員(立民)の質問に対して「生態系や環境に与える影響は否定できない」と答弁した。
衝突し沈没したタンカーは14万トンものコンデンセートを積んでいた。過去最大のコンデンセート流出事故といわれる。
にもかかわらず日本政府の対応はあまりに事なかれだ。原発事故を思い起させる。
海上保安庁は事故直後から現場海域に出動し消火作業などにあたった。しかし中島敏長官は「現場海域で採取した油分と(奄美大島や宝島に)漂着した油分は同一だという結論には至っていない」と言い放った。(7日衆院予算委員会・川内議員の質問に)
当たり前だ。漂着しているのはタンカーの動力用燃料なのだ。毒性が指摘される積荷のコンデンセートではないのである。
環境省が重い腰を上げたのは、アオウミガメが6日、奄美大島の海岸で死んでいるのが見つかってからだ(死亡原因は重油を飲んで窒息したためと見られているが)。
英国国立海洋研究所はコンデンセートの漂流コースを予測する。情報統制で鳴る中国政府が、日本政府と比較にならないほどスピーディで大量の情報を発出する。
政府の広報機関である日本マスコミは当然のごとく報道が遅い。衝突事故そのものはすぐに報じたようだが、環境問題として伝えたのは2月に入ってからだ。
ロイターは1月15日、北京・東京発で環境問題として報道した。「生態系に影響も」とする見出しだ。
福島原発事故(2011年)の際、日本政府がひた隠しにしていたメルトダウンを日本マスコミよりも先に指摘したのは、海外のメディアだった。
コンデンセートによる被害が軽微に終われば、それに越したことはない。だが政府とマスコミの対応が遅くて「事なかれ」な時は、疑ってかかった方がいい。
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