オクパ(オキュパイ)は多種多様だ。いかにも廃墟っぽいものから、一見、普通の家と変わらない、もしくはそれよりも魅力的なものもある。
あるオクパの前を歩いていた子連れの男性(40代)に聞いてみた。「色々と面白そうな企画をやっているよ。行った事はないが、住んでいる人はみな感じのいい人たちばかりだ」。好意的に感じている様子が伺えた。
毎月家賃を払い生活している人々が、無料で住んでいるオクパの住人をやっかまずに快く受け入れているのはどうしてだろうか。
スペイン国内の住居の30%は空き家だ。メディアも「使われていない家なら、誰かが住んだ方がよい」という論調が強いようだ。
人々のオクパへの見方を大きく変えたのは、はやり社会問題となっている、不動産バブル時に購入した住宅ローン不払いによる立ち退きだった。
スペインでは1日およそ500家族が家を失っている。立ち退きにより自殺に追い込まれるケースも多発した。2012年には、119人が家を無くして自殺したと言われている。昨年11月には元市議会議員だった女性(53歳)が、立ち退きの直前に窓から飛び降りて自らの命を絶った。
経済的にミドルクラスといえる人が自殺に追い込まれ、メディアも大きく取り上げた。市民はこの問題を身近なものとして受け止めるようになった。
スペインには立ち退きの危機にある人々を助けるための組織「ストップ!立ち退き(STOP Desahucios!)」があり、救済ネットワークが全国に張り巡らされている。
関連組織としてPAH(不動産バブルローンで影響を受けた人のための組織)がある。各都市に97カ所(2013年1月現在)の事務所があり、無料通話も完備している。弁護士紹介などの法的支援はもとより、実際に立ち退きに遭った人を、銀行所有のアパートへ無断で住まわせる、つまりオクパさせるなどの直接的な救済行動をしている。自分が家を追い出された、または追い出される危険がある場合にSOSを求めることができるのだ。
立ち退きに対する批判を受けて、昨年11月、立ち退きを制限する新しい法律ができた。条件を満たせば、立ち退き対象でも2年間その家で住み続けられるという内容だ。しかし、条件は非常に厳しく、対象となる人はごく少数に限られているため、解決にならないとの批判が強い。
一つ救いなのは、国が深刻な状態にもかかわらず、人々の表情が暗くないことだ。
「仕事がなく、時間があるからオクパをして共有スペースを作ろう」-若い建築家の卵たちは、市民プールがあった場所を自分たちの創作場、市民の憩いのスペースに変えた。
家族同士のつながりが非常に強いスペインでは、家を追い出されて、実家に戻ることになっても、恥と受け取られることはあまりないそうだ。30歳以下の半数が失業者と言われるスペイン。みな親元で暮らしたり、友人とアパートをシェアするなどしているため、失業率の割に路上生活者は少ない。セーフティーネットがしっかりしており、路上生活者のシェルターも充実しているからだ。
これが、日本のように核家族や一人暮らしが多い社会だったら、もっと悲惨な状況になっていたかもしれない。
最後に、どのようにオクパするのかその手順を「オフィス・オクパ・マドリット」のマニュアルから少し紹介したい―
1、長年放置されている空き家に目星を付けておく。見つけるのはそう難しくない。誰も出入りしていないかを事前に確認しておく必要がある。扉に小さい紙切れを挟んでおけば良い。
2、どのように侵入するか。出来るだけ扉や窓を壊さないように、工具などを使って押し開ける。必ずしも玄関が侵入口とは限らない。梯子で上階へ行くと意外と鍵がかかっていない窓を見つけることもある。どうしても窓を壊す必要がある場合は、粘着テープなどを貼って、騒音対策をする。
3、一度入ってしまえば、もうそこはオクパ。追い出すためには、持ち主が裁判所へ出向かなければいけない。もう一つ大事なことは、留守時に誰も入れないように、しっかり鍵をかけ、侵入口を全部ふさぐこと」。
安倍政権はインフレを設定し、労働法制を緩和しようとしている。リーマンショック(08年)のように大量の非正規労働者が職と住居を同時に失う事態が再来しないとも限らない。当時と違いソーシャル・ネットワーク・システムで人々がつながるようになった。日本でもスペインのオクパのような運動が起きることだってある。 ~おわり~
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諏訪記者はスペインの親戚を訪問した折に現地情勢を取材しました。