「3・11」以降、久々に海外ニュースが夕刊のトップ(朝日20日付)を飾った。日本人には遠いようで実は原発問題とも関わる中東和平だ。
オバマ米大統領は19日、中東政策演説でイスラエルに対して「西岸の入植地をパレスチナ側に返還するよう」と述べ2国家共存するよう求めた。
イスラエルのネタニヤフ首相はオバマ大統領の提案を即座に拒否した。「イスラエルの安全を対価としない限りパレスチナ国家は樹立しない」とする自説を述べて。自説というよりユダヤ人の共通認識と言った方がよい。
下段の地図をご参照頂きたい。イスラエルの国土は西岸を入れても日本の四国ほどの面積しかない。南北に細いのが特徴で、八方を敵に囲まれている(ヨルダン、エジプトとは友好条約を結んではいるが)。
もし西岸を手放したら細い所では幅(東西)わずか10数キロになってしまう。国防上このうえなく危険だ。東と西から挟み撃ちされればお終いである。周辺国は敵だらけなので逃げることもできない。
オバマ大統領が返還を求める西岸(通称:ウエストバンク=地図ピンク色)は、第3次中東戦争(1967年)でイスラエルがヨルダンから奪った土地だ。ヨルダン川の西岸に位置することからこう呼ばれる。愛媛県とほぼ同じ面積である。
西岸は軍事占領の地だ。そこに入植地を建設し自国民を住まわせていることは、国際法違反とされ、国際社会に批判される。ユダヤ民族の国土への執着は、他民族には到底理解できない。「西岸の返還」は民族の死活に関わるのである。
イスラエルの外交官に中東和平をめぐってインタビューした際、彼は「西岸を失うことは右腕を失うのに等しい」と答えた。
国土防衛上手放せない西岸にイスラエルは次々と入植地を建設(写真)、今や約30万人が住む。国土として既成事実化する狙いもある。
【エジプト市民革命で追い込まれるネタニヤフ首相】
オバマ大統領が強気に出る背景にはエジプト市民革命がある。イスラエル寄りだったムバラク大統領の失脚は、イスラエルの足元をすくった。
イスラエルにとって脅威のハマスが支配するガザは、経済封鎖のため囲い込まれている。だがエジプト側のゲート(地図参照)が開けば一気に勢いづく。シリアとハマスで南北から挟み撃ちすることも可能だ。イスラエルが史上唯一の敗北を喫したレバノン戦争(2006年)の悪夢がよみがえる。
オバマ大統領はそこを見透かしたのである。剣ヶ峰に立たされたネタニヤフ首相はどこまで突っ張ることができるか。
石油は不安定な中東情勢に依存しなければならない。「中東情勢に左右されずに済む原子力は安価に安定的に電力を供給できる」というのが原発推進派のふれこみだった。
原発建設が相次いだ1970年代は中東情勢が著しく不安定な時期でもあった。「原発・震災」の代わりに中東情勢が紙面のトップを飾る。エネルギーに呪われた日本の悲哀とでも言えばよいのだろうか。