「○○さん、いる?」「元気だね、顔色いいから」――孤独死ゼロを目指す常盤平団地自治会と社会福祉協議会の活動の大きな柱に独居者の安否確認がある。常盤平では「見守り」と呼ばれている。
「見守り」に歩くのは、民生委員や長年の民生委員経験者だ。民生委員を20年以上も務めた大嶋愛子さんの見守りに同行した。大嶋さんは先ずポストに郵便物や新聞が溜まっていないかをチェックする。次に呼び鈴を押し名前を呼ぶ。返事がなかった場合は建物の裏手に回る。夜でも明かりが点いていなかったり、逆に昼から明かりが点いていたりしたら要注意だ。
まとまった洗濯物が整然と干されていれば安心だという。ヘルパーさんが来ている証拠だからだ。
大嶋さんは訪ねた相手が部屋にいれば、しばらく世間話をする。この日は71歳の男性から近況を聞くことができた。男性は腎臓を患って人工透析に通院する身だ。心臓も悪い。
男性は「電車に乗ると腰が痛くてね」とこぼした。それでも大嶋さんは「あなた、顔色がいいから大丈夫よ。この間来た時より顔色がうんといいもの」と励ます。さりげない話の持っていき方はさすがベテランだ。体調の他にも団地のお年寄りの近況にも話が及んだ。男性は時折笑みを浮かべた。1人暮らしになって7~8年が経つ男性は、大嶋さんとのおしゃべりが楽しかったのだろう。
「大嶋さんは家族も同然ですか?」と男性に聞いた。
「家族と言うか、世話焼き婆さんだね」。男性は嬉しそうに答えた。
楽しい相手ばかりではない。見守りには大変な苦労もある。大嶋さんは認知症の女性(82歳)から毎晩呼びつけられたことがある。女性は「男が来るから、私がお風呂に入っている間、玄関で見張ってて」と言いつけるのだった。大嶋さんは棒を持ち玄関の内側に毎晩立ち続けた。「今日は行けない」と大嶋さんが断ると、女性は警察官を呼んだ。お巡りさんが女性の家を訪ね、大嶋さんに「大丈夫でしたよ」と報告していた、という。
つい40~50年前まで、世話焼き婆さんはどの地域にもいた。孤独死もなかった。常盤平団地では大嶋さんらの善意が孤独死を防いでいる。高齢化社会が進み孤独死は益々増えることが予想される。政府や自治体は世話焼き婆さんが復活できるような社会モデルを作る必要がある。
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