東京都知事選、最後の日曜日となったきょう、銀座・有楽町界隈では「原発推進陣営」と「原発ゼロ陣営」があいまみえた。
マスコミは原発問題の争点化を避けているが、原発推進陣営は「都知事選の争点ではない」と強調し、原発ゼロ陣営は「原発のない社会を」と訴えた。
午後1時30分、有楽町駅前―
脱原発を掲げる地方自治体の首長たちが細川護熙候補の応援演説に駆けつけた。マイクを握ったのは茨城県東海村の村上達也元村長、静岡県湖西市の三上元・現市長、福島県南相馬市の桜井勝延市長。いずれも東海原発、浜岡原発、福島原発を近くに抱える。三氏は「脱原発をめざす首長会議」のメンバーでもある。
1月19日に脱原発を訴えて再選を果たしたばかりの桜井勝延・南相馬市長。震災当時、警戒区域で物資が入ってこなくなった南相馬市の状況をユーチューブで発信したことが世界的に話題になり、2011年のタイム誌「世界に影響を与えた100人」に選ばれたりした。
桜井市長は、細川候補の応援団体の街宣車に乗り込み、悲壮な面持ちでマイクを握った。「南相馬に原発はなかった。だが6万人以上が避難を強いられ、今も2万5千人以上が避難させられている。私は市民を守るために、独断で避難させた」と、当時を振り返った。
「市民の命を守るのが政治家だ。原発で作った電気で東京が栄え、地方が捨てられる。許されない。命を守ることは東京も田舎も同じだ。東京が助けるべきでしょう。南相馬市の予算は年間1200億だが、その半分は除染費用。また東京がもうかる」
「放射能を恐れて物が入って来なくなった時、佳代子夫人がガソリンや物資を運んでくれた。だから私はここに来ている。細川さんは命の大切さを知っている。脱原発とか甘いことじゃない。棄民化された時、命を守ったことはお金では買えない。一人ひとりを大切にすること。私はそのために、南相馬から、福島から世界を変える」。
まるで桜井市長自身の選挙演説かと思うほどの、声を振り絞らんばかりの演説に目頭を押さえる聴衆もいた。多くは身じろぎもせず聞き入った。
《マスゾエコール求めるも反応なく》
午後2時、銀座三越前―
先ず舛添陣営が街頭演説を行った。安倍晋三首相、公明党の山口那津夫代表らが応援弁士として立った。舛添氏、安倍氏らが乗ったのは公明党の街宣車である。
舛添陣営の選対本部長を務める深谷隆司・元通産相がスピーチした。「原発は大事な問題だが、あげて国政の問題。都知事選で引きずる問題ではない…」。
公明党の高木陽介・幹事長代理が続く。「教条的な言葉で“脱原発”と言っても具体的にはどうするのか? 舛添さんは東京で省エネを提唱している…」。
舛添候補本人と安倍首相は、きょうは原発問題には触れなかった。両氏とも景気回復を強調した。
舛添陣営の1時間余りに渡る街頭演説会が終わると、司会者の丸川珠代参院議員が「マスゾエ・コール」を呼びかけた。「マスゾエ」「マスゾエ」…丸川議員が右手の拳を振りながら呼びかけるが、聴衆は反応しない。
それもそのはずだ。聴衆のほとんどは次の細川候補と小泉元首相の演説を聞くために銀座まで足を運んだのである。実際、聴衆はほとんど入れ替わらなかった。
《細川候補に向かってなだれ込む聴衆》
そればかりか、見る見る人は増えていった。銀座のメインストリートは日本橋方面まで人垣が続いた。
細川候補は「知事の仕事は都民の命と暮らしを守ること。原発はひとたび事故が起こればすべてが吹き飛ぶ。お金と命とどちらが大事か」と話した。
小泉元首相は「細川さんが原発をゼロにし、自然エネルギーで成り立つ社会が来る。新聞の世論調査のように細川さんが2位ということはありえない」と“予言”し、会場を沸かせた。
細川陣営の街頭演説が終わり、警察の通行規制が一部解かれると、交差点の向こう側から聴衆が細川氏に向かってなだれ込んできた。人々は殺気立ってさえいた。原発を止めてほしい一心だ。
練り歩きをしても人だかりさえできない舛添候補の街頭演説会では想像もつかない人気だ。街頭演説を見るたびにマスコミの世論調査とのギャップに首を傾げる。
インタビューした聴衆の大半は「舛添さんが当選すれば安倍政権に信任を与えたことになる」と話す。多くの人々が危機感を抱いているのだ。脱原発派有権者の誰に聞いても「一本化すべき」と答えた。