「衆院の国家安全保障・特別委員会はきょう、「特定秘密保護法」について国民の声を聞く、最初で最後(25日現在の方針)の公聴会を福島市で開いた。原発事故のあった福島であえて開催したところに政府の意図が見えた。
各党から選出された地元の7人が意見陳述した。
トップバッターの浪江町の馬場有(たもつ)町長は次のように話した―
「SPEEDIの情報が的確に公開されず、避難に活かせなかった。情報公開さえしてくれれば何らかの方法があった。東電と通報協定を結んでいたが守られなかった。我々は民主主義の拠り所である幸福追求権、生存権、財産権を全て侵害されている。人権を守って、情報公開してほしい。明るみに出せるところは出してほしい。もうちょっと慎重な対応をするべき。国民と論議を尽くすことが大切だ」。
二瓶由美子・桜の聖母短大教授は「まず、廃案にしてほしい」と切り出した。
「3.11以降、たくさんの情報が隠されていたのではないか、ここ(福島)で若い人々を教育していいのか思い悩む日々が続いた」。
二瓶教授は原発事故の際、東電社員の家族がバスで先に逃げたとされることに触れ「情報は流れている所には流れているが、私たち愚民には与えられないのではないか? それが懸念される」。教授は官僚や政府トップによる情報独占の危険性を指摘した。
原発関連会社の名嘉幸照社長の陳述にはド肝を抜かれた。情報隠ぺいの多い原発政策を擁護するのかと思っていたら、その真逆だった。
「原発労働者が原発について家族にも話せない状況が続いてきた。それが安全神話を生み取り返しのつかない事故につながった」。
「私は沖縄県出身だが、米軍事故では何も知らされなかった。“ 私達は日本人ですか? ”といつも問いかけて来た。福島県の人にも“ 私達は日本人ですか?”と言わせないで下さい」。名嘉社長は体の深奥から言葉を絞り出すようにして訴えた。
陳述人7人全員が「特定秘密保護法に反対する」と宣言した。
公聴会終了後、額賀福志郎座長(自民)、国家安全保障特別委員会の中谷元・与党筆頭理事らが記者会見を開いた。
「地元陳述人は原発災害における情報公開と国民の生命・財産を守る特定秘密を若干混同していたが整理できた」。額賀座長は自信をのぞかせた。
“ 国民が心配する情報隠しと、国が守ろうとする特定秘密は違うのだから、通過させても構わないだろう ” といわんばかりだ。政府が福島で公聴会を開いた意図がここにあった。
ところが浪江町長にぶら下がり記者会見で話を聞くとそうではなかった。「(特定秘密の)範囲が広すぎる。テロ防止の名目で(原発)事故隠しをされたら困る」。
「理解してもらえたか?」と記者団が聞くと「理解してないんじゃないかな。表情を見る限り」。浪江町長は肩を落とした。
「中央でも公聴会をすべき。2週間やそこらの審議で済むことではない。国民の安全保障に関わる問題なのだから」と続けた。
公聴会開始前、幼子を背負った母親が受付に現れた。「秘密保護法にイヤと言いたいんですけど、私たちは言えないんですか?子供のためにもすごく心配。何か分からないで知らずに触れる恐れがある。議員さんにもぜひ伝えたい」
母子はたまたま公聴会会場のホテルに投宿していたのだった。安倍政権は国民の心配をよそに猛スピードで「特定秘密保護法案」を成立させようとしている。