イスラエル軍の地上侵攻に付き物なのが虐殺であることはよく知られているが、もう一つの付き物がある。住民の逮捕・連行だ。
住民はイスラエル軍による逮捕・連行について語りたがらない。地元ジャーナリストも「聞くこと自体stupid(ばかげている)だ」と顔をしかめる。タブーなのだ。
筆者は大規模虐殺があったフザー村に幾度も足を運ぶうち、当事者に行き当たった。実名、写真ともに伏せる。
イスラエル軍に逮捕・連行されたものの無事解放された男性(30代後半)は次のように話した―
7月25日か26日だった。イスラエル軍の部隊が家の近くまで来たので怖くなり、裏の親戚の家に逃れた。
だが、そこにまでイスラエル軍は来た。親戚一族と村人約25人(全員男性)は、手を後ろに縛られ、目隠しをされた。パンツ一枚にされ、メルカバ戦車に分乗させられた。
連れて行かれた所はイスラエル軍の軍事施設だった。今考えるとエレツだ。
取調べが続いた。PCの画面に地図があり「どこに(ハマスの)トンネルがあるんだ?」「アジトはどこだ?」と追及された。
軽く殴られたくらいで拷問はなかった。男性は「知らない」と答えた。
4日間の取り調べの後、男性は解放された。男性を含めて18人がこれまでに解放されているが、7人はまだイスラエル軍に拘束されている。
筆者が耳にしているだけでもフザー村では、もう一件、逮捕・連行がある。7月21日に起き、約60人がイスラエル軍に拘束され、エレツに連れて行かれた。こちらも帰らぬ村人がいる。
最激戦地ベイトハヌーンでは7月26日、住民8人が押し込められて、家屋を爆破された虐殺事件があった。ここでは3人の少年がイスラエル軍に逮捕・連行された。3人とも解放されている。
知っていなければ、トンネルの場所もアジトも明らかにすることはできない。だが、別のルートから漏れたとしても、ハマスからは疑いの目で見られる。近隣の人々からも「彼は自供したのではないか」と訝しまれる。
イスラエル軍による逮捕・連行は、人間関係さえも危うくする。タブー(禁忌)にしておかねばならないのだ。