イスラエル兵にかかると、パレスチナ人は人間でなくなる。オリジナルは2023年11月。
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惨劇はイスラエル軍の軍事作戦が終了した後、起きた。しかも攻撃対象エリアの外で―
SNSのライブから流れてくる爆撃音を聞きながら、田中は北の最果てジェニンに向けて取材車を走らせた。
不倶戴天のハマスとファタハが「反イスラエル」の合言葉で同居するジェニンの難民キャンプは、イスラエル軍が最も神経を尖らす地帯だ。
イスラエル軍は29日未明から武装勢力の幹部を殺害するオペレーションを開始した。難民キャンプに侵攻した陸上部隊は武装勢力を炙り出すため、住民を家から立ち退かせた。
武装勢力が潜んでいるとみられる家屋には空爆をかけた。
イスラエル軍は29日昼下がりまで続けた軍事作戦の結果、ジェニン大隊のムハマド・ズバイディ司令官をはじめとする6人を殺害した。ジェニン大隊はハマスの兄弟分であるイスラム聖戦に所属する。
軍事作戦を終えて難民キャンプを離れたイスラエル軍は、ジェニンの市街地を通過しようとしていた。
その時だった。自宅近くの路上にいた少年アダム君(9歳)がイスラエル軍兵士の目に留まったのである。兵士はライフルの引き金を引いた。弾はアダム君の頭部をきれいに撃ち抜いた。
田中は市街地のセキュリティカメラが捉えた動画を見た。アダム君は路上にいただけだ。石ころの一つも持っていない。いきなり撃たれたのである。
近くの病院に救急搬送されたが、すでに事切れていた。遺体が自宅に帰ると、母親は冷たくなった我が子の手をいつまでも摩(さす)り続けた。
アダム少年は、昨年5月アルジャジーラの女性記者シリンさんがイスラエル軍に射殺された現場のすぐ傍の墓地に埋葬された。
この日は別の少年(15歳との情報)も射殺されている。こちらも難民キャンプの外である。石は持っていなかった。
葬儀に訪れていた住民は吐き捨てるように言った。「イスラエル軍はパレスチナ人だったら誰でも殺すんだ。ヘイトだ」と。
~終わり~
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【読者の皆様】
最盛期より幾らか安くなったとはいえ、ドライバーへは危険手当も含めて1日600ドル(約9万円)も払わなければなりません。
ホテル代も入れると1日平均10万円を超えるコストになります。毎日取材に出るわけではありませんが、1ヵ月に換算すると途方もない金額になります。
イスラエル軍の銃口よりも借金に怯えながらの取材行です。
ガザに隠れがちですがヨルダン川西岸でも着々と民族浄化が進んでいます。
ジャーナリストがこの世の生き地獄を伝えなければ、エスニック・クレンジングは歴史上なかったことになります。