本格陸上侵攻に向けてガザ北端の境界に集結するイスラエル軍の機甲師団に動きがないことを視認すると、田中は一気に取材車を北上させた。
レバノンとイスラエルがすでに砲火を交えている両国の国境を目指した。取材車を高速で飛ばして3時間余り、イスラエル随一の戦略要衝ゴラン高原に着いた。
ヒズボラの砲撃に遭ったのか。草むらが所々で黒くなっている。焼け焦げた匂いが鼻孔を突いた。
イスラエル軍の装甲車が、外形は綺麗なまま乗り捨てられていた。車内は少しだけ焼け焦げている。ヒズボラの奇襲に遭ったのだろう。
レバノン国境から飛んできたロケット弾が命中した形跡はない。ヒズボラの戦闘員がゴラン高原に侵入し装甲車を攻略したのだ。
イスラエル軍が誇るメルカバ戦車1個小隊が森の入り口に隠されていた。ドローンに発見されないようにするためだろうか。
イスラエル軍の車両と何台もすれ違った。レバノン国境沿いは本格開戦前の緊張感が張りつめていた。田中とドライバーは取材車の中で話すのもヒソヒソ声になった。
レバノンの米国大使館は19日、同国に駐留する米国市民に対して「交通機関が動いているうちにレバノンを退去するよう」促した。事実上の退避勧告である。
2022年2月10日、バイデン大統領がウクライナの米国市民に退避勧告を出すと、2週間後にロシアが攻め込んできた。米国市民への退避勧告は開戦の目安となるのだ。
2006年、今回と同じ様にイスラエルはガザのハマスとレバノンのヒズボラに挟撃された。
4次に渡る中東戦争でアラブ諸国を敵に回して一度も負けたことのないイスラエル軍が手痛い敗北を喫したのである。
イスラエルに同じ轍を踏ませまいと米国は地中海に空母打撃群を展開させている。
ガザに本格陸上侵攻すれば、イスラエル北部は戦闘が激化し、焦土と化す恐れがある。ヒズボラの攻勢を防ぎきれないからだ。
イスラエルの国土は狭い。瞬く間に中枢が壊滅的な打撃を受けることもありうる。
地中海の米軍は動かざるを得なくなる。中東は、世界は、いま重大な局面を迎えている。
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田中は人類史に残る大虐殺が起きる恐れのあるガザを取材するためにパレスチナに来ております。
危険手当を伴うためにドライバーに日額1千ドル(約14万円)も払わなければなりません。
飛行機代、ホテル代ですでに借金まみれとなっており、そこに巨額の取材費がのしかかります。
連絡先:tanakaryusaku@gmail.com