松山空港から車に揺られて約1時間。文科省事務方の前最高責任者は、文科行政の歴史的な汚点となった学舎の前に降り立った。
前川喜平氏が3日、市民グループが主催する講演会のため今治市を訪れた。市街地にほど近い丘陵地帯に完成しつつある加計学園獣医学部校舎には、講演会会場に向かう途中で立ち寄ったのだった。
前川氏は主催者たちに案内され、広大なキャンパスに沿った県道の歩道をゆっくりと歩いた。巨大な建物は首が凝るほど見上げなければならなかった。
3棟のうち真ん中に位置する獣医学部棟といわれる建物の前に来た時だった。
「こうして既成事実を積み重ねていったんだなあ」・・・前川氏は落胆とも驚きともつかぬ口調で感想をもらした。
「ここは一年前まで更地だったんですよ」と田中が説明すると、前川氏は「やっぱり急いだんだ」。
獣医学部の開設に疑義を呈していた前事務次官は、さらに疑問を深めたようだった。
「どうしてあんなに開学を急いだのか分からない。我々にはおととし(2016年)の8~9月頃から『(平成)30年4月の開学だ』と言ってきてましたからねえ」。常に冷静で淡々と語る前川氏が、少し強い口調で言った。
経営危機が囁かれる加計学園は、建設費用の水増し請求疑惑が持たれており、裁判沙汰となっている。開学を急いだ理由を、前川氏は婉曲的に表現したのだ。
講演会の後で「莫大な公費を投じて作ったあの校舎をどう思うか?」と尋ねた。
前川「今治市民が許してしまったことは後になって痛恨の記憶として残るだろう」
田中「前川さんご自身、悔いはないか?」
前川「あの建物を見たいとは思わなかった」
安倍政権により行政が歪められたとする見方について聞くと「あからさまであることは間違いない」。前川氏は決然として言った。
公僕のトップが、造船とタオルの町で安倍首相による国家の私物化を巨大なコンクリートの塊として見せつけられたのだった。
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本稿は3日に取材したものですが、『週刊文春』と現場で交わした紳士協定により本日(8日)零時の公開となりました。
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