現場を見ずして記事を書くのは極めて不本意なのだが、猛毒である日本型コロナ変異株を、ただでさえ弱っているガザに持ち込むわけにはいかない。
前々回(2008年末~2009年初め)、前回(2014年)のガザ戦争の現地取材を思い出しながら本稿を進める。
◆ ◆
イスラエル軍のバンカーバスターは、5階ビルの屋上から1階まで真っ直ぐ貫いて落ちていた。
対するハマスのロケット弾はブリキ製だ。田中は現物を見たが、まるでオモチャのようだった。イスラエルはこれをアイアンドームと呼ばれる精巧な防空システムで迎撃する。
大人と子供の喧嘩なんてものではない。巨象とアリの戦いである。圧倒的な力の差である。当然、ガザ側の被害の方がはるかに大きくなる。
子どもたちが描く絵は、イスラエル軍のドローンが圧倒的に多い。親族がドローンから攻撃されて命を落としているからだろう。
目の前で父親がイスラエル軍に殺されたという男の子に「将来何になりたいか?」と尋ねた。
男の子は迷うことなく「ハマスの兵士になる」と答えた。圧倒的な力の差が、ハマス兵士を産む。
この先、本格戦争になれば、イスラエル軍は陸上侵攻する。
空爆では叩けないハマスの地下施設を発見し、潰すためだ。地下施設は民家の一階が入り口になっていたりする。こればかりはドローンでも発見できない。
イスラエル軍の陸上部隊は、内部通報に基づき、地下施設の入り口と思われる民家を急襲する。
民家への攻撃の際、起きるのが虐殺とレイプだ。家が丸ごとすっぽりと消え、キャタピラーの跡だけ残っているのは、蛮行を隠すためだ。虐殺の現場を見届け世界に伝えるのは、ジャーナリストをおいて他にない。
イスラエル軍の広報官を務める将校は、田中のインタビューに、民家への攻撃を認めたうえで「(ハマスの地下施設を叩くために)どうしても行き過ぎが起きる」と苦笑した。
「母親がレイプされ殺された」と話す少年は後に、ハマスより過激とされる「イスラム聖戦」の戦士となった。
力の差があればあるほどガザ地区における民間の犠牲者は増える。肉親を殺された子供は戦士となる。
イスラエルは米国の援助を受けて米製兵器を大量に買う。そして消費する。
永久運動のループである。この戦争は尽きない。
~終わり~
◇
『田中龍作ジャーナル』は新聞テレビが報道しない、報道できないニュースを伝えます。コロナの波をもろに被り運営が厳しくなっております。