菅直人首相は20日、都内で「年頭外交演説」を行った(主催:民間外交推進協会・FEC)。米大統領の外交演説を真似たつもりなのだろうが、恐ろしいほど内容のないものだった。
要は官報の発表事項と高校生が唱えているような理想論を並べているだけなのである。
昨年、国内世論の批判を浴びた対中国外交についても、もっと踏み込んだことを言うのかと思っていたが、見事に裏切られた。
尖閣沖の中国漁船衝突事件を「極めて残念な出来事」としただけだった。後は「日本と中国は2000年以上つきあってきた一衣帯水の隣国・・・戦略的互恵関係の内容を深める努力が重要」などと一般論を連ねた。
対北朝鮮外交についてはさらにお粗末だった。「韓国延坪島への砲撃事件や核開発は北東アジア地域のみならず国際社会の安定と平和を脅かすものだった・・・」。ニュースを読んでいれば誰でも知っていることだ。
そのうえで「日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し国交正常化を追及してゆく」とした。これまでの歴代の首相・外相が、ずっと言い続けてきたことではないか。
対ロシア外交に至っては開いた口が塞がらなかった。「我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する・・・」などとした。
日本政府が半世紀以上言い続けて来たことを、首相が「年頭外交演説」と題して改めて言うことだろうか。日本の首相とはそれほど暇なのか、と外国メディアから笑われるだけである。
官僚の原稿にしてはお粗末だ。それでも菅首相は一所懸命に原稿を読んだ。顔は下を向きっぱなしである。自分の言葉とおぼしきものは何ひとつなかった。
ロシア外交の後半部分では1ぺージ飛ばしてしまったため、文章の辻褄が合わなくなる場面もあった。対ロシア外交からいきなり「海洋国家云々」と読み始めたのだ。菅さんといえどもそれには気付いたようで「失礼しました」と訂正して読み直した。
演説を聞いた香港フェニックス・テレビの李記者は「面白くない、どうやったらニュースに仕立てることができるのか分からない」と顔をしかめた。
日本にはもっと大事な外交案件がある。国際機関から批判と改善要求を突きつけられている日本の記者クラブ制度の改革だ。日本の記者クラブは閉鎖的で会社の利益追求のための談合組織である。
記者クラブを改革しないことには海外に向けてまともな発信ができるわけがない。湯水のごとくODAを使っても自衛隊が海外で危険な任務にあたっても、日本は永遠に評価されないのである。
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