文・ライター 中山栄子
ノイホイこと菅野完(すがの・たもつ)氏の近著『日本会議の研究』。
著者は、自らを保守で右翼であると規定し、反原発運動や反ヘイトスピーチにも携わるなどしてきた人物だ。その右翼がなぜ右寄りの団体を研究するようになったのか。
今までの街宣右翼とも民族派右翼とも違う「一群の人々」が政権の中枢に入り込み、憲法改正という名の明治憲法回帰に手を付けようとしている。
菅野氏が炙り出した彼らの正体は、神がかりな元右派セクト学生集団だった。
昨年、戦争法の国会審議中のことを思い出す。菅官房長官は「多くの憲法学者が合憲だと言っている」と突っぱねた。反対運動に立ち上がった学者の会メンバーにも、安倍政権と御用学者達は動揺しなかった。学問世界のヒエラルキーが何の役にも立たないことに、さしもの東大名誉教授らも驚いたことだろう。
疑問に思っていたが本書を読んで氷解した。安倍政権の御用学者は「学者が政権におもねっている」のではなく、「新興宗教の信者が大学教授になった」ということなのだ。
本書を読んだ多くの人は、日本会議のルーツが長崎を中心にした九州「生長の家」信徒の右派学生によるセクト運動であることを知るようになった。
そこから新旧の自民党議員・・・衛藤晟一、井脇ノブ子といった人々を輩出してきたことも明らかにされた。戦争法を合憲と論じた百地章・日大教授も古い仲間だ。
彼らは学生運動華やかりし頃、学園正常化(授業再開)運動を機に政治活動を始めた。その原動力は左翼を圧倒することにあり、実際は殴られたから殴り返すという、半世紀にわたる私怨を晴らすことにある。
左翼を圧倒し、私怨を晴らした先にどんな社会を作るビジョンがあるのか?日本会議は自ら改憲案を持たずに、自民党改憲草案イコール改憲の中身としている。
この「一群の人々」が繰り広げる運動に祖父・岸信介を引き摺り下ろした左翼に私怨を持つ安倍晋三が引き寄せられた。
自前の改憲案は持っていないが「現行憲法は日本語になっていない」とつぶやく中山恭子議員のような心情的改憲派も集まってくる。
偉そうな人たちが皆入っているから、俺たちも入っておこうと地方議員が押し寄せる。天皇崇拝から、神道も新興宗教も寄って来る。日本会議はバキュームクリーナーのようにあらゆる右派的なものを吸い寄せている。
日本会議を生んだ「生長の家」は代替わりし、先日、自民党を支持しない旨の声明を発表したことで話題になった。だが、日本会議にとっては痛くも痒くもなかったに違いない。
日本会議の中心を占める人々は、初代教祖の書いたものだけを信じる原理主義者だからだ。
稲田朋美・自民党政調会長が、祖母から受け継いだ谷口雅春の『生命の実相』をぼろぼろになるまで読み込んだ、という写真が掲載されたページは、読む人を驚愕させる。この人も信者が政治家になったのだ。
日本会議が改憲発議のための重要な選挙であると位置づけた参議院選挙はすでに始まってしまった。日本会議が強調する「すみやかな憲法改正発議の実現を!」が本当の参院選の焦点なのだろう。
イギリスのEU離脱国民投票は猶予期間も地域の独立もあるだろう。だが、日本では憲法改正の国民投票が通ってしまえば、すぐにでも緊急事態条項が発令され自由は終焉を迎える。
~終わり~