国軍に焼かれた村 ジャーナリストが生きて帰れない秘境があった

独立武装勢力を追い詰める国軍兵士。手にしているのは国産の自動小銃だ。兵士たちは「独立勢力が持つAK47に負ける」とこぼしていた。=2005年、アチェ 撮影:筆者=

独立武装勢力を追い詰める国軍兵士。手にしているのは国産の自動小銃だ。兵士たちは「独立勢力が持つAK47に負ける」とこぼしていた。=2005年、アチェ 撮影:筆者=

 インドネシアの最西端アチェは、スマトラ虎が夜道を のっそのっそ と歩く。「ジャーナリストが入ったら生きて帰れない」と言われる秘境だった。なぜなら ―

 世界有数の天然ガス資源を独占したい国軍が、住民自治を認めず恐怖政治を敷いていたのだった。

 広大な天然ガス精製工場は日本のODAで作られていた。独立勢力を震え上がらせた拷問部屋は、この工場の中にあった。

 2004年、秘境の扉がかすかに開いた。スマトラ沖大地震大津波をもろに被ったアチェに国際援助団を入れるためだ。

 田中はこれに便乗した。発想したのはジャーナリストの先達、遠藤盛章さん(故人)だった。 

 遠藤さんはサダム・フセイン末期のイラクを取材中、治安警察に拘束され、バグダッドの刑務所に収容された経験を持つ。潜入取材の達人だが、いつも危険と背中合わせだった。

 アチェの取材中にも英国人記者が国軍のスナイパーに射殺されたりした。射殺されるのは決まって車での移動中。それも森の中だ。独立勢力と間違われるのだ。

 私たちは取材車の窓を全開にして走った。「怪しい者ではありませんよ」と示すために。

炎を出しているのは天然ガス。精製工場は車で端から端まで走るのに20分もかかるほど広大だった。天然ガスさえ出なければ国軍に恐怖政治を敷かれることもなかった。=2005年、アチェ 撮影:筆者=

炎を出しているのは天然ガス。精製工場は車で端から端まで走るのに20分もかかるほど広大だった。天然ガスさえ出なければ国軍に恐怖政治を敷かれることもなかった。=2005年、アチェ 撮影:筆者=

 どこの安宿に泊まろうが、すぐに警察が来た。「一刻も早くここから出て行ってくれ」。警察官の決まり文句だった。

 津波被害の取材でアチェに入った著名日本人ジャーナリストはいた。だが私たちの取材テーマは「国軍に焼かれた村」だった。

 射殺された英国人記者は「焼かれた村」を目指していたと推測される。津波の取材であれば森の中に入る必要なんてない。

 私たちは足かけ3ヵ月に及ぶ取材で村に入れた。タンスは開いたままで衣服や下着が散乱していた。村人が着の身着のままで逃げたことを物語っていた。

 木造家屋の焦げた匂いは、焼き討ちから数年を経ているのにもかかわらず鼻孔をくすぐった。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチが18日、ミャンマー国軍によって焼かれたラカイン州のようすを撮影した衛星写真を公開した。

 8月25日以後、65万人のロヒンギャが難民となって隣国バングラデシュに逃れた。流出スピードの物凄さに援助関係者も驚く。

 ラカイン州の焼かれた村は、未曾有のエスニッククレンジングを物語る。BBCの現地記者が取材中に逮捕された。遠藤さんだったら、どうやって潜入するか。天国に教えを乞いたい。

     〜終わり~

      ◇
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