トルコからの手紙 「原子力協定を批准しないで」

「エルドアン独裁政権打倒デモ」に参加したシノップの反原発団体。=昨年6月、イスタンブール 写真:田中龍作=

「エルドアン独裁政権打倒デモ」に参加したシノップの反原発団体。=昨年6月、イスタンブール 写真:田中龍作=

 トルコへの原発輸出を可能にする原子力協定が国会で批准されようとしている。衆院本会議で採決があった4日、「トルコ反原発同盟」(英語名:Turkish Antinuclear Alliance)が日本の国会議員あてに「原子力協定を批准しないで下さい」とする内容のレター(メール)を送っていたことが分かった。

 トルコ反原発同盟は原発に反対する約100の市民団体が加盟する全国組織だ。   

 同盟は日本の国会にチャンネルがないため国際環境団体の「FoE」に先ず送った。FoEは参院の外交・防衛委員会に所属する国会議員21名の議員事務所にFAXで送った。

 手紙(全文は下記に)を要約すると―
トルコには原子力を推進するためのインフラや制度が整備されていない。しかも独裁国家であるため、情報公開は望めない。原発の安全性確保は日本の責任である。

 筆者は昨年6月、日本の三菱重工が仏アレバ社とともに原発を建設しようとしている黒海沿いの漁師町シノップを取材した。

 現地の反原発同盟の幹部によれば、福島の事故を受けて原発反対運動は急速に盛り上がるようになった、という。トルコの黒海沿岸にはチェルノブイリ原発事故の際、放射能プルームが飛来してきた。ガンの発生率が高い。

 もともと原発への危機感が強い地域に日本は原発を持ち込もうとしているのである。反対運動は今後さらに高まることが予想される。

シノップは風光明媚にして、魚の産卵場となっている好漁場だ。ここに不気味な巨大湯沸かし器が建とうとしている。=昨年6月、シノップ岬 写真:田中龍作=

シノップは風光明媚にして、魚の産卵場となっている好漁場だ。ここに不気味な巨大湯沸かし器が建とうとしている。=昨年6月、シノップ岬 写真:田中龍作=

(以下、トルコ反原発同盟の手紙全文~原文ママ)

日本国国会議員の皆様

 2013年5月、日本とトルコは黒海沿岸西部のシノップに原子力発電所を建設するための協定を締結しました。三菱重工業とアレバ社が共同建設することになっています。

 また、2010年にトルコは、アックユに原発を建設するための協定をロシアとも結びました。ロシアメーカーの「建設・所有・運営モデル」は原子力エネルギー産業では稀であり、安全に関する様々な問題を投げかけています。

 現在のトルコは原発建設に前のめりになっており、福島やチェルノブイリのような原発事故が発生した場合に引き起こされる、社会・環境に対する様々な問題を考慮していません。

 とくに、トルコの国内政治・経済に内在する対立、科学技術・安全規制の分野における非効率性、専門家の不足などは、原発建設・運転に関する大きな脅威となっています。トルコは日本のような地震国でありながら、日本のような地震対策がありません。

 また、日本とは文化が異なり、リスク管理の態度も違います。これらの諸要因は、トルコで原発を運転するリスクを非常に高くしています。

 私たちは、日本国国会議員の皆様にトルコとの原子力協定を撤回することを要請し、以下に理由を説明します。

 まず第一に、トルコは民主主義社会ではなく、現政府により独裁主義的支配が進んでいます。持続可能なエネルギー政策を考慮せず、国民と議会の声を無視し、一方的に原子力を推進する政府の行動は、公正発展党(AKP)による民意無視の政治手法を体現するものです。

  トルコ国民の多数は、原発・核兵器に反対しています。IPSOSが2011年4月に実施した「福島原発事故に対する世界市民の反応」調査によると、80%のトルコ国民が原子力反対を表明しています。

 しかし、トルコ国民とNGOは、政府に働きかけるための民主主義的チャンネルを持っていません。ジャーナリスト保護委員会の調査によると、ジャーナリストが投獄される確率が世界で一番高いのは、2013年より2年連続でトルコとなっています。(イランや中国よりも投獄の確率が高いということです。)

  トルコに言論・集会の自由がないということは、民主主義が機能するために必要な民意の役割を、トルコの政治エリートが度外視していることを意味します。

 エルドアン首相は、「権力分立は障害でしかない」という趣旨の発言もしており、彼の専制的指導のもと、公正発展党は政策決定を独断的に進めています。原発に関する協定交渉が素早く進んだのも、専門家や科学者の意見を十分に聞かずに政府が意思決定をしたことが理由です。

 このような状況で、政府が国民の反対意見に耳を傾けることはありえません。反対意見を表明する国民は、政府に
「国賊」と呼ばれ警察により排除されます。また、警察による不必要な暴力行為はエスカレートしてます。

 2013年6月にゲジ公園近辺で行われたデモンストレーションに警察が介入した際には、3000人以上が逮捕、8000人以上が障害の残る重傷、そのうちの一人の10代の少年はいまだ意識不明、12人が視力を失い、11人が命を落としました。これがトルコの「民主主義」の現実なのです。

  昨年のトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数でトルコは177か国中53位にランクされましたが、この後、トルコ政府要人による複数の汚職事件が明るみになりました。

 2013年12月17日から汚職事件の調査が始まりましたが、トルコ政府の透明性や責任性が向上することは期待できません。(公正発展党内部の権力闘争が、汚職事件調査の動機になっているからです。)

 そして、汚職事件調査が続くなか、外交・原子力協定などの交渉のためにエルドアン首相は日本を訪問したのです。政府に批判的なジャーナリストはメディアから締め出されているため、トルコ国民に首脳会談の内容が十分に知らされることはありませんでした。余談ですが、2013年5月に日本・トルコ原子力協定に署名したエルドアン内閣の大臣のうち4人は、汚職事件により12月に辞職しています。

  地震国であるトルコに建設される予定の原発の安全性を確保することは、トルコ政府だけでなく、日本政府の責任でもあります。トルコは原発の安全性を確保するために必要な財政、法制度、人材、技術が十分にありません。

 トルコは、ロシアと日本の2つの異なる国と何十億ドルとする原発建設の協定を結んだだけでなく、アックユとシノップに建設される原発は新しいデザインの原子炉を使用することになっています。(この状況は、原子力産業にとっては非常に珍しいケースです。)

 原発以外の大規模な公共事業と合わせると、トルコ政府の財政赤字は 過去最高に達する見込みです。公正発展党は選挙での支持を伸ばすために、議会による規定の予算審査過程を回避することで2012年と2013年の予算を通しました。もちろん、トルコ国民は原発の本当の経済コストを知りません。

 長年トルコでは、原発の環境に対する影響を憂慮するNGO、労働組合、環境団体、地域住民が、デモや署名活動などを通して運動を展開してきました。またNGOは、原子力協定に関する法案に対して裁判を起こし、高等裁判所で勝訴を勝ち取りました。

 しかし、エルドアン内閣は、国内法案ではなく国際協定という形式に切り替えることにより、原発建設をトルコの裁判所の所轄外にしたのです。このため、原子力に関する国際協定が議会で一度批准されてしまうと、原発訴訟を起こすことが不可能になります。実際に、2014年1月9日の議会で、原子力協定は全く議論されることなく批准されました。

  以上のような政治状況に加え、トルコは原子力を推進するのに必要な制度・インフラが整備されていません。原発建設を進めるには、トルコ原子力委員会(Turkish Atomic Energy Authority)の建設・運転許可が必要なのですが、原子力委員会は原子力安全規制の仕事も同時に担っています。

 ロシアメーカーRosatomとATMEAがアックユ原発に使用する予定の原子炉は新しいデザインであるため、安全審査の先例・ガイドラインが不足していたのですが、それにもかかわらず原子力委員会は建設を早々と許可しました。

 ロシアメーカーは、建設に関する環境アセスメントも行わず、「メルスィン市長から採石の許可が下りている」
という理由で、原発建設現場付近の森林伐採をすでに始めています。

 トルコ原子力委員会は、チェルノブイリ原発事故の際に、国民の健康と安全を守るための十分な措置を取りませんでした。現在に至るまで、チェルノブイリ事故で引き起こされたトルコ国内の放射能ホットスポットの地図は作成されていません。

 そんな中、チェルノブイリ事故に起因するガンが、トルコの若い世代の間で増加しています。

 また、原子力委員会には、IAEAの基準に見合う規制を実行する だけの独立性も専門性もありません。政治的に内閣に従属し、推進と規制の二面性を持つことから利益相反を引き起こしています。

 2007年には、トルコ第3の都市イズミルのスクラップ工場で、密輸入された使用済み核燃料棒が発見されると いう事件も起きています。しかし、原子力委員会は周辺住民の放射線防護のために責任をもって行動することを拒否し、スクラップ工場を鉄条網で囲むという措置しか施しませんでした。

 また、原子力協定はトルコに新たな外交・防衛問題を突き付けようとしています。 第二次世界大戦以降、トルコは近隣諸国と平和な関係を保ってきました。建国者たちのモットー「平和なトルコ、平和な世界」は、長年トルコの外交政策の支柱でした。

 しかし、公正発展党のシリアに対する行動に見られるように、現政府の外交政策はこのモットーから逸脱しつつあります。日本とトルコの原子力協定は「原子力の平和利用」を掲げていますが、トルコを中近東の国々のためのプルト
ニウム輸出国にしてしまう危険があるのです。

  放射能は国境を知りません。チェルノブイリと福島の原発事故の本当の被害状況がまだ把握できないなか、原発をトルコに輸出しようとするロシアと日本の行動は道徳に反するものです。

 なによりもトルコの政治家は、国民の声を無視し自分たちの利益を追求した結果、汚職事件に見られるように正当性を失っています。

 このような状況で締結された原子力協定を将来の世代に押し付けるのは無責任であり、ロシアと日本との原子力協定は中止されるべきです。

 もしも中止されなければ、トルコ国民は次の選挙を通して原子力協定反対の民意を示すでしょう。

 この手紙を読むことで、日本の政治家の方々にトルコの実情を理解していただけたら幸いです。また、日本の経済界の方々にも、現在の日本とトルコの経済協力は、不安定な政治状況の中で進められていることを理解していただきたいと思います。

 私たちは、日本国国会議員の皆様が、以上に説明したトルコの実情と、福島原発事故被害がまだ収束していないという現実を鑑み、日本・トルコ原子力協定を批准しないことを願っています。

 長期的な視点に立ち、トルコとの原子力協定批准を拒否することは、人々の健康を優先した英断として将来評価されることでしょう。美しい地球、民主主義、平和を実現するために、私たちとともに行動してくださることをここに請願します。

トルコ反原発同盟

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