ノーベル平和賞と戦争―ゴルバチョフの軍隊が市民に発砲した

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新婚間もなかった息子はソ連軍によって射殺された。墓参の男性は目頭を押さえた(カスピ海を見下ろすバクー市内の丘。写真=筆者撮影)

 アフガニスタンへの増派を決めたオバマ米大統領のノーベル平和賞受賞に賛否両論が渦巻いている。だが東西冷戦を終結に導いたことなどが評価され、1990年にノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフ・ソ連共産党書記長の場合はそうではなかった。ゴルバチョフが同じ年にソ連軍を連邦構成共和国のアゼルバイジャンに侵攻させたことは余り知られていない。

 強権で各共和国を締め上げていたソ連も末期はタガが緩み、各地で民族紛争が頻発していた。ソ連西南のアゼルバイジャン共和国は、ナゴルノカラバフ自治州の帰属をめぐってアルメニア共和国と紛争状態にあった。まだソ連は崩壊していないので、正確に言うと内戦ということになる。

 モスクワがアルメニアを支援したことから、アゼルバイジャンは劣勢となる。両民族が混住しているアゼルバイジャンでは、非戦闘員のアルメニア人とアゼルバイジャン人による殺傷沙汰が続いていた。非戦闘員であるのにもかかわらず民族間で殺り合うのは内戦下の常だ。

 90年1月、ソ連軍はアルメニア人保護を名目にアゼルバイジャンの首都バクーに侵攻した。無差別に発砲し、市民約200人が殺害されたとされる。現場を目撃していたバクー市民によれば、ソ連軍は手当たりしだいに射殺を繰り広げたという。惨劇は「黒い1月事件」と呼ばれ、歴史に刻まれている。

 カスピ海を見下ろす丘にはソ連軍によって殺された市民たちの墓地がある。数えようにも数えきれないほど墓が並んでいた。すべてが犠牲者の墓だ。墓石という墓石には元気な頃の写真が刷り込まれている。今にも飛び出してきそうなほどリアルだ。それが事件への憎しみを増幅させる。

 墓地には献花が絶えない。息子を殺されたという男性はカーネーションを供えた後、目頭を押さえた(写真)。「ゴルバの軍隊が発砲した」は、バクー市民に永遠に語り継がれることだろう。

 ノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフの隠しようのない“業績”だ。「武力によって維持される平和」。扱い方を誤ると取り返しのつかない悲劇となる。

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