なぜ続くアフガン紛争(5) 米国陰謀説の説得性

中央アジア諸国の北・東・西は米国に反発する国ばかり(地図作成:塩田涼)

中央アジア諸国の北・東・西は米国に反発する国ばかり(地図作成:塩田涼)

 
 アフガニスタンの人々は「ここはパシュトゥン族の地区、そこはタジク族、あそこはハザラ族」などと敏感に気にかける。
 
 前回取材のコーディネーターを務めてくれたタジク人は豪胆な男だった。地雷原の中を「俺の後をついて来い」と言って悠然と歩くほどだった。その彼にしても他民族の地区に行くと、取材車にロックをかけて閉じこもったきり出てこなかった。

 この連載第1回で述べたように、アフガニスタンは民族ごとに大まかな棲み分けができている。 民族共和国による緩やかな連邦国家にすれば無用な紛争はしなくて済む――。筆者はこう思うのだが、そうなると困る国がある。それが米国だ。

 中央アジアのウズベキスタンとトルクメニスタンは石油と天然ガスの埋蔵量が豊かだ。米国はそれをアフガニスタンを経由するパイプラインでインド洋まで運び出したい。そのため、アフガニスタンは米国の意に添える統一国家でなければならないのだ。

 マスード記念塔。カブール国際空港そば(撮影:いずれも筆者)

マスード記念塔。カブール国際空港そば(撮影:いずれも筆者)

 地図で分かるとおり、周辺諸国を見れば、西はイラン、北はロシア、東は中国。いずれも米国に反発している国ぐにだ。どうしてこれらにパイプラインを敷設できようか。中央アジアの石油と天然ガスは、アフガニスタン → パキスタン → インド洋のルートで運び出すしかないのである。

 アメリカが米石油メジャー、ユノカル社の特別顧問だったハミド・カルザイ氏をアフガニスタンの大統領に「インストール」したのは、このためだ。カルザイ氏は全人口の42%という最大民族・パシュトゥン族の出身だ。

 最大民族から大統領を選ぶのは、アフガニスタン以外の国であれば合理的である。だがアフガンではそれは合理的でないことが間もなく証明される――

 カルザイ政権発足後1ヶ月と経たないうちに他民族の不満が爆発した。大統領一行が襲われる銃撃事件が起きたのだ。大統領の護衛は当初、国防部が担当していた。

 国防部はパシュトゥン族と犬猿の仲のタジク族が主体だ。大統領周辺は国防部が襲撃事件を仕組んだとの見方を強め、護衛を米軍(現在は民間軍事会社)に切り替えた。

 それでもカルザイ政権は国防部からタジク人を切り離すことはできない。米国が首都カブール奪還(2001年11月)に利用した北部同盟の中心が、タジク人だったからである。米国のその場しのぎの政策が、後の火種となっているのだ。

 9.11テロはアフガン侵攻の口実?

 アフガニスタンに侵攻する口実として米国が9.11同時多発テロ事件を仕組んだ、という見方がある。陰謀説である。筆者はこの手はあまり好きではない。だが現地で取材を進めていると、いかにも「米国の策略」を思わせる、いくつかの事柄に出くわした。

 その1つに、ムッラー・ボルジャンとマスード司令官の死がある。

 ボルジャンはタリバンの最高幹部だった男だ。パシュトゥン族で構成されるタリバンでありながら、彼は他民族からも敬愛されていた。そのボルジャンが、米国の諜報機関とパキスタンのムシャラフ大統領から、2つの計画への協力を要請されていたという。

 ムッラー・ボルジャンの墓(男性の足元)

ムッラー・ボルジャンの墓(男性の足元)

 1つ目は、アルカイーダに多額の金を渡してニューヨークのワールドトレードセンター・ビルに飛行機を突っ込ませる。2つ目は、アフガニスタン国民の間にカリスマ的人気を持つタジク族のマスード司令官の暗殺だ。もし、米軍の侵攻、駐留などといった事態になった場合、愛国心の塊で敬虔なイスラム教徒であるマスード司令官が黙って許すはずがないからだ。

 ボルジャンは米国とパキスタンの協力要請を2つとも断った。ニューヨーク攻撃に対する報復を口実に、米軍がアフガニスタンに侵攻することを読んでいたからだ。

 相次ぐクーデターと戦乱の中で生まれ育ってきたボルジャンには、「戦争はもうごめんだ」との強い思いがあった。マスード司令官の暗殺については、イスラム教徒同士で殺し合いたくない、という理由で拒否した。

 米国とパキスタンにとって、ボルジャンは「知りすぎた男」になった。彼は2000年末、何者かに狙撃され命を落とした。米国とパキスタンの諜報機関が絡んでいる、との見方が有力だ。

 翌2001年9月10日にマスード司令官が暗殺される。その翌日、世界を震感させる9.11テロが起きる。無関係と思われている2つの死は、実は密接につながっていたというわけだ。

 それから1ヶ月も経たないうちに米国はアフガニスタンに侵攻した。「目論み通り」というのが、この陰謀説の説得力あるところだ。《つづく》

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